第35章 誰が君を行かせる?

杉浦杏奈はようやく顔を上げ、きょとんとした表情を作った。

「映画の話……?」

「そうだ」

杉浦陽向は彼女の向かいにある本革のソファへどかりと腰を下ろし、背もたれにだらしなく凭れた。だが口調だけは命令だった。

「今のお前の状態じゃ映画は無理だ。演技だって正直――まだ足りない。2番手女優の枠は美雪にとって少し窮屈かもしれんが、相手は鈴木真彦の作品だ」

杏奈は、途方もない冗談を聞かされたみたいに口を開けたまま、言葉が出てこなかった。

この男は杉浦陽向だ。血が繋がっていなくても、二十年以上「兄さん」と呼んできた人間。

自分が無人島で行方不明になり、病院で三日も昏睡していたのに――一度も...

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